指折り心待ちにしていたのが、この店の営業再開である。創業は大正2年。西暦だと1913年だから約百年になろうとしている。これまでの建物は戦後に建て直されたものだそうだが、それでも60年以上が経過し、老朽化で建て替えを余儀なくされた。
ビルにする案もあったようだが、それを撥ね退けて以前の面影を忠実に再現して二階建ての姿のままで再建したという。金儲けなんぞよりは、この世にはもっと大切なものがある。店主のそんな心意気が感じられる。

このお店は閉店が19時半と早い。仕事を何とか切り上げて脇目も振らず向かう。初日で行列騒ぎになっていたらと心配しながら店の前まで来ると、入り口の戸が開け放たれ、幸いにも空席が見えた。
お馴染みのベテラン花番さんが笑顔で出迎えてくれる。
席に案内されて周囲を見回して驚いた。店構えばかりか、店内のレイアウトも依然と「寸分違わず」と言ってもいいほど忠実に再現されている。さすがに壁も天井も真新しくなって清潔感が出た。
11月1日という日は、毎年私にとっては特別な日だ。ここ並木藪では鴨を通年は扱わず、この日を解禁日と定めている。便利なばかりが能じゃない。不便なところに伝統的な食の神髄がある。
閉店時刻まで間がないこともあり、最初から鴨南蛮と酒を冷やで注文。目の前に菊正宗のこも被りが鎮座まします。


以前と変わらぬ角袴を履いた白徳利。ねっとりとした蕎麦味噌付き。花番さんが新聞を勧めてくれた。この店の接客ぶりにはいつも感心する。
丁度、酒をちびりとやって徳利が空く頃に鴨が来た。これは他店で出す松茸そばと同様に主役がどちらだかわかなくほど具が凄い。吟味された分厚い鴨肉がごろごろと載り、つくねも入る。葱は炒めずに生を使うのがこの店の流儀だ。江戸っ子はええ恰好しいなので、くたっとした葱は恥ずかしいそうだ。私にとっての世界一の鴨料理。

温蕎麦でも蕎麦湯を出していただけるのが嬉しい。つゆの旨味を存分に堪能できる。これでまた、建物としては数十年は心配いらないだろう。私の残りの人生は保証されたようなものだ。
私はほとんど嬉し泣きしそうだった。
参考:そば・うどん業界.com
http://www.soba-udongyoukai.com/info/2011/2011_0921_namiki_yabu.html食べログ
http://r.tabelog.com/tokyo/A1311/A131102/13003650/
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